紅葉シーズンはまだかなり先の京都ですが、秋の観光シーズンを迎えて
います。どこへ行っても人人人で混雑していてさすが日本一の観光都市
の名に恥じません。そこで今回は洛中の喧噪を少しでも避けて嵯峨野を
歩いてみることにしましょう。と言ってもすいている、という意味では
ありませんので誤解のなきよう。

嵯峨野といえば、どこか短調的な、少し哀しみを湛えた土地柄といった
イメージがあります。それはこの地に残る横笛や祇王・祇女たちの
悲恋伝説と、中世まで風葬の地とされていたことに由来があるようです。
そんな情趣に触れたいのなら早朝か夕刻に訪れることをお薦めします。
寺社の拝観時間は事前にチェックして下さいね。雨の日も良いかも知れま
せん。

アクセスについては、京都市内中心部からはバスか京福電鉄(嵐電らんでん)
の選択になりますが、やはり四条大宮から嵐電にコトコト揺られながら嵐山に着く
のが良いでしょう。大阪からは阪急電車で桂経由嵐山のコース。嵐山駅から
少し歩けば渡月橋は目の前です。

嵯峨野散策の始発点はその渡月橋となります。ただ嵐電嵐山駅から渡月橋
までの間は京都でも有数の混雑地帯ですので覚悟しておきましょう。
渡月橋は平安時代に架けられた橋ですが現在はバスも渡るコンクリート橋
で、欄干部分だけが装飾的に木製となっています。ちなみに下を流れる川の
名前ですが、この橋のあたりでは大堰川(おおいがわ)、それより上流が
保津川、逆に下流が桂川と呼ばれています。渡月橋を中心とした嵐山一帯は
春は桜、夏の新緑、秋の紅葉、冬の雪景色を目当てに年中訪れる人の絶えない
行楽地となっています。

さて渡月橋から嵐電嵐山駅方向に戻っていよいよ嵯峨野の寺社巡りに出かけま
しょう。まずは駅のすぐ西向かいにある天竜寺から始まります。嚆矢に相応しい
荘厳な寺院です。京都五山の第一に叙せられる臨済宗の古刹ですが寺院として
の開山は1339年、高僧夢窓疎石の勧進により足利尊氏が後醍醐天皇の菩提を
弔うために建立したと言われています。しかし歴史的に尊氏と後醍醐は対立した
間柄でしたから真実は謎に包まれていると言って良いでしょう。残念ながら
江戸時代の火災と明治維新期の戦火により現存の建築物は明治以降に再建され
たものです。しかし大方丈の前に広がる開祖夢窓疎石作庭になる池泉回遊式庭園は
嵐山を借景にした雄大な眺めで訪れる人を魅了しています。
そして筆者がぜひお薦めしたいのがこの寺院の塔頭のひとつである妙智院に
ある「西山艸堂」。にしやまそうどうと読みますが、地元の人々からは西山豆腐と
親しみをこめて呼ばれている精進料理のお店です。メニューは一年を通して湯豆腐
の定食です。こじんまりとした畳の座敷で美味しいお豆腐を召し上がれ。